最低賃金が上がると、低い時給で働く人の収入が底上げされる一方で、会社の人件費が増え、サービスの値段や働く時間(シフト)にも影響が出ます。厚生労働省の調べでは、小さな事業所で働く人の27.7%が2025年度の引き上げで時給を上げてもらう対象になりました。この記事では、公的な資料と研究から良い面・悪い面を整理し、当サイトの最低賃金データベースと物価のデータで、最低賃金と物価の10年の上がり方を比べます。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| ・低い時給で働く人の収入が上がる ・収入が増えた分、消費が支えられる ・地域の差が縮まり、地方の人材確保につながる ・会社が設備投資などで効率を上げるきっかけになる | ・会社の人件費が増え、利益が減る ・サービスなどの値段が上がりやすい ・シフトや採用が減り、一部の人の働く機会が減るおそれ ・余力の小さい中小企業の負担が重い |
最低賃金の引き上げで一番大きいのは、最低賃金近くで働く人の時給が法律で必ず上がることです。働く側の代表は、引き上げが生活を守り、景気を下から支えると主張しています。最高額に対する最低額の割合も2026年度は84.8%まで上がり、地域の差は縮まってきました。
一方で、上がった人件費は、会社が値上げや利益の削減、働く時間の調整などで吸収することになります。会社側の代表は、とくに小さな会社ほど支払いの余力が小さいとして、慎重な判断を求めています。良い面と悪い面のどちらが大きく出るかは、引き上げの大きさや地域、業種によって違います。
カンテレNEWS「大阪の最低賃金が「1231円」に 引き上げの“光と影”…」(2026年9月公開)。大阪の最低賃金の引き上げで、パートで働く人と事業者それぞれへの影響を伝えるニュースです。
| 年度 | 最低賃金(全国加重平均) | 小さな事業所での影響率 | 5人以上の事業所での影響率 |
|---|---|---|---|
| 2005年度 | 668円 | 1.6% | 1.3% |
| 2015年度 | 798円 | 9.0% | 4.0% |
| 2020年度 | 902円(+1円) | 4.7% | 2.5% |
| 2023年度 | 1,004円 | 21.6% | 8.1% |
| 2024年度 | 1,055円 | 23.2% | 8.8% |
| 2025年度 | 1,121円 | 27.7% | 10.8% |
影響率は、最低賃金を改定したあと、新しい最低賃金を下回ることになる人の割合です。つまり、引き上げによって時給を上げてもらう必要が出る人の割合を表します。従業員30人未満の小さな事業所では、2005年度に1.6%だったのが、2025年度は27.7%になりました。小さな事業所で働く人のおよそ4人に1人が、最低賃金の改定で時給が上がる対象だったことになります。
5人以上の事業所を広く調べた統計では、2025年の影響率は10.8%で、こちらが働く人全体に近い数字です。どちらの統計でも、引き上げ幅が大きくなった2023年度以降に影響率が急に上がっています。引き上げが1円だった2020年度は、影響率も大きく下がりました。
厚生労働省の集計(2025年・5人以上の事業所)では、最低賃金の引き上げで影響を受ける人の66.9%が女性でした。年齢では24歳以下が27.2%、60歳以上が26.7%で、学生のアルバイトや高齢の人も多くを占めます。産業別の影響率は、宿泊業・飲食サービス業が27.6%で最も高く、生活関連サービス・娯楽業(17.1%)、卸売・小売業(16.8%)が続きました。
当サイトのデータで、各年8月に使われていた最低賃金と、品目別の物価の上がり方を10年で比べました。最低賃金は798円から1,121円へ+41%でしたが、物価全体(総合)は+17%でした。人件費の割合が大きいとされるサービスでも、外食は+25%、介護料は+13%、理美容は+12%、持ち家を家賃に直した値なども含む一般サービス全体では+6%にとどまっています。
外食の値上がりには、人件費だけでなく、10年で+37%上がった食料(材料費)の影響も含まれます。日本銀行の分析(2024年10月)では、最低賃金が1%上がると一般サービスの値段が0.07ポイント上がる関係がありました。2026年度の約5%の引き上げに当てはめると、単純計算で約0.35ポイントの押し上げです。最低賃金が上がると物価も上がる面はありますが、この10年は最低賃金のほうが物価よりずっと大きく上がっていました。
月約173時間働く人で考えると、10年前の最低賃金(798円)の月給は約13.8万円、2025年度(1,121円)は約19.4万円です。物価全体が17%上がった分を差し引いても、買えるものの量はおよそ2割増えた計算になります。各年の物価の動きは物価ウォッチで確かめられます。
| 考え方 | 最低賃金を上げると |
|---|---|
| 働き手と雇い主が多い市場 | 賃金が本来の水準より高くなり、会社が人を雇う数を減らす(失業が増える) |
| 雇い主が少ない市場(買い手独占) | 会社が賃金を低く抑えている場合、一定の範囲までは上げても雇用は減らない(増えることもある) |
「最低賃金を上げると失業率が上がる」と言われるのは、教科書的な考え方では、賃金が上がると会社が雇う人を減らすためです。一方、雇い主が少なく働き手がほかに移りにくい地域では、会社が賃金を低く抑えていることがあり、その場合は最低賃金を上げても雇用は大きく減らないと考えられています。内閣府の2026年の経済財政白書は、実証研究では「結論は出ていない」と整理しています。
アメリカでは、1992年に最低賃金を上げたニュージャージー州のファストフード店で雇用が減らなかったとする研究(カードとクルーガー、1994年)が知られています。日本では、若い人の就業率が下がったとする研究(川口大司・森悠子、2021年)や、企業の雇用や利益率が下がったとする研究(森川正之、2026年)がある一方、地方では雇用を大きく損なわずに賃金を上げられる可能性を示した内閣府の分析もあります。
森川正之氏の論文で紹介された日本企業への調査(最低賃金の影響があると答えた991社・複数回答)では、対応で多かったのは値上げ(47.7%)、利益の圧縮(38.8%)、設備投資による効率化(34.5%)、労働時間の削減(27.5%)で、従業員を減らすは7.1%でした。働く人にとっては、人が減るよりも、シフトが減る形で影響が出やすいことがうかがえます。
| 項目 | 数字 | 出典 |
|---|---|---|
| 最低賃金を「負担」と感じる中小企業 | 76.6% | 日本商工会議所・東京商工会議所(2026年2月調査) |
| 下回る従業員がいて賃金を引き上げた中小企業 | 45.1% | 同上(2025年度の改定について) |
| 「人件費高騰」が原因の倒産(2025年度) | 195件(前年度の1.8倍) | 東京商工リサーチ(2026年4月公表) |
| 「人手不足」関連の倒産(2025年度) | 442件(過去最多) | 同上 |
日本商工会議所などの調査(2026年2月)では、中小企業の76.6%が最低賃金を「負担」と答えました。人件費の増加に対しては「具体的な対応が取れず収益を圧迫」が35.0%、「価格への転嫁」が31.0%、「残業時間・シフトの削減」が23.3%でした。
東京商工リサーチによると、2025年度の「人件費高騰」が原因の倒産は195件で、前年度より77.2%増えました。ただし、これは最低賃金だけでなく、人手不足のなかでの賃上げ全般が原因に含まれる数字で、最低賃金の引き上げが原因の倒産の件数ではありません。国は、従業員の最低賃金を50円以上引き上げて設備投資などをした中小企業に、費用の一部を助成する業務改善助成金(2026年度は上限600万円)を用意しています。
| 項目 | 上げ幅 |
|---|---|
| 春闘の賃上げ率(連合・全体) | 5.01% |
| 春闘の賃上げ率(連合・300人未満の中小) | 4.69% |
| パートなどの時給の引き上げ(連合) | +75.01円(6.18%) |
| 最低賃金(全国加重平均・2026年度) | +56円(5.0%) |
最低賃金は春闘の結果をそのまま使って決めるわけではありませんが、審議会は春闘の結果を「賃金」の大事な材料として確かめています。2026年度の審議では、働く側が3年続けて5%を超えた春闘の賃上げを根拠に大幅な引き上げを求め、会社側は小さな会社ほど賃上げ率が低いことや、小規模な会社の賃金の上がり方を調べた厚生労働省の調査を重視するよう主張しました。
結果として、2026年度の最低賃金の上げ幅(5.0%)は、春闘の全体の賃上げ率(5.01%)とほぼ同じ水準になりました。春闘は大企業や労働組合のある会社が中心なので、組合のない職場で働く人にとっては、最低賃金の引き上げが賃上げの実感に直接つながる面があります。
A. 時給は上がりますが、会社がシフトを減らしたり、扶養の範囲に収めるために自分で働く時間を減らしたりして、月の収入があまり増えないことがあります。時給が上がらない理由や発効日は最低賃金が上がったのに時給が上がらない理由は?、手取りや年収の壁は最低賃金の月給・年収・手取りはいくら?でまとめています。
A. 影響率は、最低賃金を改定したあとに新しい額を下回ることになる人の割合です。未満率は、改定の前から最低賃金を下回っている人の割合で、法律違反の状態の人を表します。未満率はこの20年ほど1〜3%で大きく変わっていません。
A. 法律で上げる義務があるのは、新しい最低賃金を下回る人の分だけです。ただ、日本商工会議所などの調査では、下回る従業員がいなくても賃金を引き上げた中小企業が37.9%あり、少し上の時給の人にも影響が広がることがあります。
A. 法律が、地域の生計費・賃金・会社の支払い能力を考えて決めるよう定めているためです。詳しくは最低賃金はなぜ都道府県で違う?で解説しています。
最低賃金の推移は最低賃金の推移は?で、都道府県ごとの額は最低賃金データベースで確かめられます。
この記事の情報は2026年10月8日時点のものです。主な出典: 厚生労働省 中央最低賃金審議会の資料(最低賃金に関する基礎調査・賃金構造基本統計調査の特別集計)、「地域別最低賃金の全国一覧」、総務省「消費者物価指数」(当サイトで集計)、日本銀行「経済・物価情勢の展望」(2024年10月)、内閣府「経済財政白書」(2026年)・経済財政分析ディスカッション・ペーパー、経済産業研究所(RIETI)の論文、日本商工会議所・東京商工会議所の調査、東京商工リサーチ、連合の春闘集計、厚生労働省「業務改善助成金」。最低賃金の引き上げの是非について、特定の立場をすすめるものではありません。