最低賃金が都道府県で違うのは、最低賃金法が「地域の生計費・賃金・会社の支払い能力」を考えて地域ごとに決めるよう定めているためです。毎年、国の審議会が引き上げの目安を示し、それをもとに都道府県ごとの審議会が金額を決めます。この記事では、決め方とランクの仕組みを厚生労働省の資料で整理し、当サイトの最低賃金データベースから、地方ほど大きく上がってきた最近の流れを確かめます。
| 考えること | 地域によって違う点 |
|---|---|
| 働く人の生計費 | 家賃や物価など、暮らしにかかるお金。生活保護との整合性にも配慮する |
| 働く人の賃金 | その地域でふつうに払われている給料の水準 |
| 会社の支払い能力 | その地域の会社が払える賃金の水準(もうけや売り上げ) |
最低賃金法第9条は、地域別最低賃金を「地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力」を考えて決めると定めています。家賃や給料の水準、会社のもうけは地域によって違うので、その地域に合った下限を決める、という考え方です。2026年度は、いちばん高い東京が1,280円、いちばん低い宮崎が1,085円で、195円の差があります。
| 比べるもの | いちばん高い | いちばん低い | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 最低賃金(2026年度) | 東京 1,280円 | 宮崎 1,085円 | 1.18倍 |
| 物価(消費者物価地域差指数・2025年) | 東京 104.2 | 群馬 96.2 | 1.08倍 |
総務省の調べでは、2025年の物価の地域差は、いちばん高い東京といちばん低い群馬で1.08倍でした。東京の物価を押し上げているのは主に家賃などの住居の費用です。最低賃金の差(1.18倍)は物価の差より大きく、これが「地方は不公平では」という声が出る理由のひとつです。一方で、厚生労働省の賃金構造基本統計調査(2025年)では、ふだんの月給の平均が全国平均を上回ったのは東京・神奈川・愛知・大阪の4都府県だけで、給料の水準そのものにも地域差があります。
九州・沖縄の8県のうち、福岡を除く7県は、目安のランクでいちばん下のCランクに入っています。ランクは、県民所得や給料の水準、会社の売り上げなどの指標から決まるため、これらの数字が低めの地域ほど最低賃金も低めになります。2026年度の九州・沖縄は、福岡が1,114円、ほかの7県は1,085〜1,096円でした。ただし、後の【データ】で見るように、この10年の上がり方は九州・沖縄がいちばん大きくなっています。
| 時期 | 何が起きるか |
|---|---|
| 6月26日 | 厚生労働大臣が中央最低賃金審議会に審議を求める(諮問) |
| 7月28日 | 中央最低賃金審議会が引き上げの目安を答申(Aランク54円・Bランク56円・Cランク56円) |
| 8月〜9月上旬 | 47都道府県の地方最低賃金審議会が、目安を参考に金額を答申 |
| 答申から15日 | 働く人や会社が異議を申し出られる期間 |
| 決定・公示 | 都道府県労働局長が決定し、公示する |
| 10月1日〜12月2日 | 新しい最低賃金の発効(公示から30日後か、それより後に指定した日) |
最低賃金を決める審議会は、働く人の代表・会社の代表・中立の立場の有識者の三者でつくられています。国の中央最低賃金審議会が毎年7月下旬から8月上旬に示すのは、あくまで「目安」で、実際の金額は都道府県ごとの地方最低賃金審議会が話し合って決めます。厚生労働省は、目安は地方の審議を「拘束するものでない」と説明しています。
朝日新聞「最低賃金引上げ目安が決定 最低賃金の仕組みとは【解説】」(2026年7月公開)。2026年度の引き上げの目安が決まったことと、最低賃金の仕組みを解説する動画です。
2026年度は、目安どおりに上げると全国加重平均は1,176円の計算でしたが、多くの県が目安より上げたため、答申が出そろった時点で1,177円(56円の引き上げ)になりました。発効日も都道府県ごとに決まるので、新しい額になる日は県によって2か月ほど違います。発効日の一覧は最低賃金が上がったのに時給が上がらない理由は?にまとめています。
| ランク | 目安額 | 都道府県 |
|---|---|---|
| A(6都府県) | 54円 | 埼玉・千葉・東京・神奈川・愛知・大阪 |
| B(28道府県) | 56円 | 北海道・宮城・福島・茨城・栃木・群馬・新潟・富山・石川・福井・山梨・長野・岐阜・静岡・三重・滋賀・京都・兵庫・奈良・和歌山・島根・岡山・広島・山口・徳島・香川・愛媛・福岡 |
| C(13県) | 56円 | 青森・岩手・秋田・山形・鳥取・高知・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・鹿児島・沖縄 |
ランクは、中央最低賃金審議会が目安の額を示すために47都道府県を分けたグループです。所得・消費、給与、会社の経営に関する19の指標から都道府県ごとの「総合指数」をつくり、その順にA・B・Cに分けています。以前はA〜Dの4ランクでしたが、2023年4月の見直しで、目安の制度が始まった1978年度以来はじめて3ランクになりました。
3ランクに減らしたのは、ランクの数が多いほど目安額に差がつき、都道府県の差が開きやすいためです。2026年度は、Aランクより低いBランク・Cランクの目安を2円高くしていて、地域の差を縮める方向の目安になっています。次の見直しは2028年度が目途とされています。
当サイトのデータベースで、地方ごとに都道府県の平均額を2016年度と2026年度で比べました。10年でいちばん大きく上がったのは九州・沖縄の+52%で、四国・東北も+51%でした。一方、関東は+42%、近畿は+43%で、もともと高い地域ほど上がり方は小さくなっています。金額で見ても、九州・沖縄の平均は372円、関東は354円上がっています。
| ランク | 目安額 | 実際の引き上げ額の平均 | 目安を上回った数 | 2026年度の平均額 |
|---|---|---|---|---|
| A(6都府県) | 54円 | 54.5円 | 3 | 1,229円 |
| B(28道府県) | 56円 | 57.6円 | 18 | 1,119円 |
| C(13県) | 56円 | 60.8円 | 12 | 1,090円 |
2026年度は47都道府県のうち33府県が目安を上回りました。Cランクでは13県のうち12県が目安を超え、最も大きい佐賀は目安より9円多い65円の引き上げです。その結果、いちばん低い県の額はいちばん高い東京の84.8%になりました。この割合は2014年度の76.2%が最も低く、2026年度まで12年続けて上がっています。
地方で目安を大きく超える引き上げが広がるきっかけになったのが、2024年度の徳島県です。2023年度の徳島の最低賃金は896円で、全国で下から2番目でした。2024年度、徳島県の後藤田正純知事が地方最低賃金審議会で人材の確保や人口の流出を理由に大幅な引き上げを求め、審議会は目安の50円を34円上回る84円の引き上げで980円と答申しました。当サイトの集計では、高いほうから数えた順位は27番目まで上がっています。
この引き上げは、のちに徳島の審議会で会社側の委員が「徳島ショック」と呼んでいます。目安を上回った都道府県の数は、2024年度に27、2025年度に39、2026年度に33と多い状態が続いています。2026年の中央最低賃金審議会では、働く側からも会社側からも、目安を大きく超える引き上げが続くことへの意見が出ていました。
TBS NEWS DIG「「最低賃金」上げ幅84円トップの徳島県 大幅アップの背景は?自治体のし烈な争いも【Bizスクエア】」(2024年9月公開)。2024年度に84円の引き上げをした徳島県の背景を伝える番組です。
| 全国一律を求める意見 | 地域別を続けるべきという意見 |
|---|---|
| ・地域の差が、若い人の都市への流出を招いている ・家賃は違っても車の費用などがかかり、地方でも生活費は大きく変わらない ・主な国の多くは全国一律 | ・法律が地域の生計費・賃金・支払い能力を考えて決めると定めている ・地方の中小企業には負担が大きく、事業や雇用が続けられなくなるおそれ ・ランクで分ける今の仕組みは合理的 |
| 全国労働組合総連合(全労連)、自民党の最低賃金一元化推進議員連盟(2019年発足)、各地の地方議会の意見書など | 政府の答弁書(2016年)、日本商工会議所・東京商工会議所の要望(2021年)など |
全国一律の最低賃金を求める側は、地域の差が若い人の都市への流出につながっていると主張しています。全労連は、25歳の一人暮らしに必要な生活費を各地で試算すると、家賃の安い地方では車の費用がかかり、全国でほぼ同じ水準になったとしています(労働組合の独自の試算で、政府の統計ではありません)。
反対する側は、法律が地域の実情を考えて決めると定めていることや、地方の中小企業の負担を挙げています。政府は2016年の答弁書で、地域の実情を踏まえずに全国一律にすることを検討するのは「適切ではなく」との立場を示しました。日本商工会議所などが2021年に行った中小企業への調査では、一元化(全国一律)に「反対」が78.0%でした。
労働政策研究・研修機構の資料によると、イギリス・ドイツ・フランスは全国一律の最低賃金です。アメリカは国(連邦)の最低賃金に加えて、州ごとに最低賃金があります。2016年の政府の答弁書では、G7(主要7か国)のうち全国一律でないのは日本・カナダ・アメリカの3か国とされています。
A. 最低賃金法にもとづいて国が決める賃金の下限で、会社はそれ以上を払わなければなりません。都道府県ごとの「地域別最低賃金」と、特定の産業で決める「特定最低賃金」の2種類があります。
A. 住んでいる場所ではなく、働いている事業場がある都道府県の額です。派遣社員は、派遣先の事業場がある都道府県の額になります。
A. 毎年7月下旬から8月上旬に国の目安が示され、8月から9月上旬にかけて都道府県ごとの額が答申されます。新しい額になるのは10月以降で、県によって発効日が違います。
A. 2026年度の北海道は1,131円で、宮城(1,098円)や福岡(1,114円)より高くなっています。3つともBランクで、目安の額は同じです。差は、それぞれの地方最低賃金審議会がその地域の生計費や賃金の状況を話し合って決めた結果です。
都道府県ごとの額と順位は最低賃金データベースで、最高と最低の差の推移は2026年度の最低賃金、東京と宮崎の差は195円、全国平均の推移は最低賃金の推移は?で確かめられます。
この記事の情報は2026年10月8日時点のものです。主な出典: 最低賃金法、厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」「目安制度の在り方に関する全員協議会報告」(2023年4月6日)「令和7年賃金構造基本統計調査の概況」、総務省「小売物価統計調査(構造編)」、徳島労働局の審議会資料、労働政策研究・研修機構の資料、全労連・日本商工会議所の公表資料。全国一律にすべきかどうかについて、特定の立場をすすめるものではありません。