家賃の値上げは、借りている人が合意しなければ拒否できます。家賃は大家さん(貸主)と借りている人(借主)の合意で決まるもので、値上げの通知が届いても、従来どおりの家賃を払っていれば住み続けられます。この記事では、借地借家法と東京都の案内をもとに、断ったあとの流れと相談先を整理し、当サイトの家賃ウォッチで、主要8都市の家賃が1年でどれだけ上がったかも確かめます。
| 場面 | ルール | 根拠 |
|---|---|---|
| 値上げの通知が来た | 通知だけでは家賃は変わらない。合意しなければ従来の家賃のまま | 東京都の案内 |
| 大家さんが値上げを求められるとき | 税金などの負担の増加、土地や建物の価格の上昇などの経済事情の変動、近所の同じような建物の家賃との比較で、家賃が「不相当」になったとき | 借地借家法32条1項 |
| 話し合いがまとまらない | 借主は、裁判で値上げが確定するまで「相当と認める額」の家賃を払えばよい | 借地借家法32条2項 |
| あとで値上げが確定した | 払った額が足りなければ、不足分に年1割の利息をつけて払う | 借地借家法32条2項 |
| 更新を断る・出て行ってもらう | 大家さんの側に「正当の事由」が必要 | 借地借家法28条 |
東京都消費生活総合センターは、家賃の変更は貸主と借主の双方の合意で決まるもので、値上げに納得できないときは直ちに応じる必要はない、と案内しています。従来どおりの家賃を払っていれば、引き続き住み続けることができます。
一方で、大家さんにも家賃の値上げを求める権利があります。借地借家法32条は、経済事情の変動などで家賃が「不相当」になったとき、貸主・借主のどちらからでも家賃の増減を求められると定めています。拒否できるのは「合意しない自由」があるからで、値上げの話を一切しなくてよいという意味ではありません。
借地借家法32条が挙げている理由は、大きく3つです。1つめは、土地や建物の固定資産税などの負担が増えたこと。2つめは、土地や建物の価格の上昇など経済事情が変わったこと。3つめは、近所の同じような建物の家賃と比べて安すぎることです。
「管理会社が変わったから」「オーナーが変わったから」というだけでは、この理由にあたりません。東京都住宅政策本部は、オーナーチェンジをきっかけにした大幅な値上げのトラブルについて、合意がなければ値上げは認められないと注意を呼びかけています。通知が来たら、まず値上げの理由と根拠を書面で尋ねましょう。
返事をしないまま従来の家賃を払い続けても、それだけで値上げが成立するわけではありません。ただ、無視を続けると話し合いがこじれ、大家さんが調停を申し立てることもあります。「値上げには合意できないので、従来の家賃をお支払いします」と書面やメールで返事をして記録を残す方が、あとで困りません。
| 順番 | 起きること | 借主がすること |
|---|---|---|
| 1 | 値上げの通知が届く | 理由と根拠を尋ね、合意できなければ書面で伝える |
| 2 | 話し合い | 従来の家賃を期日どおり払い続ける(滞納しない) |
| 3 | 大家さんが家賃を受け取らない | 法務局(供託所)に家賃を供託する |
| 4 | まとまらないとき:民事調停 | 簡易裁判所で、調停委員を交えて話し合う(家賃の増減は、裁判の前にまず調停) |
| 5 | 調停も不成立なら:裁判 | 値上げが確定したら、不足分に年1割の利息をつけて払う |
値上げを断ったことだけを理由に、大家さんが一方的に借主を追い出すことはできません。大家さんが更新を断ったり解約を申し入れたりするには、借地借家法28条の「正当の事由」が必要で、値上げに合意しないことは通常それにあたらないと考えられています。
気をつけたいのは家賃の滞納です。「納得できないから」と家賃を払わずにいると、今度は借主の契約違反になり、退去を求められる理由になりかねません。拒否するときほど、従来の家賃を期日どおりに払い続けることが大切です。
「値上げに合意しないと更新しない」と言われることがあります。普通の賃貸借契約(普通借家契約)では、更新の話し合いがまとまらなくても、大家さんに正当の事由がなければ契約は従前と同じ条件で更新されたものとみなされます(借地借家法26条・28条。法定更新といいます)。更新の書類に値上げ後の家賃が書かれていたら、サインする前に内容を確かめましょう。一度合意すると、その額が新しい家賃になります。
大家さんが「値上げ後の額でなければ受け取らない」と家賃の受け取りを断ることがあります。そのままにすると滞納と同じ状態になるおそれがあるため、法務局(供託所)に家賃を預ける供託という手続きがあります。供託すれば、家賃を払ったのと同じ扱いになります。手続きの詳しいことは、最寄りの法務局で確かめてください。
契約書に「定期建物賃貸借」とある定期借家契約は、更新がなく期間の満了で終わる契約です(借地借家法38条)。再契約のときの家賃は新しい契約の条件になるため、普通借家契約と同じようには断れません。反対に、「一定の期間、家賃を値上げしない」という特約がある場合は、その定めが優先されます(借地借家法32条1項ただし書き)。まず手元の契約書を確認しましょう。
| 今の家賃 | 5,000円上げると | 東京23区の1年の上がり方(+3.0%)に当てはめると | 5,000円の値上げの1年分 |
|---|---|---|---|
| 6万円 | +8.3% | +約1,800円 | 6万円 |
| 8万円 | +6.2% | +約2,400円 | 6万円 |
| 10万円 | +5.0% | +約3,000円 | 6万円 |
| 12万円 | +4.2% | +約3,600円 | 6万円 |
家賃の値上げに「相場」や国が決めた基準はありません。そこで物差しになるのが、世の中の家賃の平均がどれだけ動いているかです。総務省の小売物価統計調査で見ると、東京23区の民間の借家の家賃は、2025年8月から2026年8月の1年で3.0%上がりました。全国の消費者物価指数の民営家賃は、同じ1年で0.7%の上昇です。
家賃8万円の部屋に東京23区の上がり方を当てはめると、1年で約2,400円です。月5,000円の値上げは家賃8万円なら6.2%で、平均的な上がり方の2倍ほどにあたります。5,000円の値上げを受け入れると、1年で6万円、2年契約なら12万円の負担増です。ただし、部屋の立地や築年数、何年も家賃が据え置かれていたかで事情は変わるため、近所の似た部屋の募集家賃と比べることが大切です。
法律に「何%まで」という上限はありません。その代わり、値上げ後の家賃は借地借家法32条の理由に照らして「相当」な額である必要があり、合意できなければ最終的には調停や裁判で決まります。東京都消費生活総合センターの相談事例には、更新時に月2万円の値上げを通知され、近所の相場と比べて高いと感じて相談したケースが紹介されています。
主要8都市の民間の借家の平均家賃を、2025年8月と2026年8月で比べました。上がったのは8都市のうち5都市で、いちばん上がった東京は+3.0%です。40㎡の部屋に直すと、月に約3,600円の値上がりにあたります。大阪は+1.7%、福岡は+1.3%でした。
一方で、札幌(−0.8%)・仙台(−1.3%)・那覇(−2.4%)は平均家賃が下がっています。「どこでも家賃が上がっている」わけではなく、地域によって差が大きいことが分かります。自分の住む都市の平均と比べて値上げ幅が大きすぎないかは、交渉の材料になります。
東京23区の平均家賃の前年同月比(各年8月)は、2001〜2025年のほとんどの年で±1%前後に収まっていました。調査する住宅の入れ替えがあった年(2003・2008・2014・2019・2024年)を除くと、2026年8月の+3.0%は2001年以降で最も大きな上がり方です。都内で値上げの通知が増えているのは、統計の動きとも重なります。
東京都と都内の区市町村の消費生活相談窓口に寄せられた「家賃の値上げ」に関する相談は、2024年度の517件から2025年度は1,086件と、2倍を超えました。8都市の毎月の家賃と2000年からの推移は、家賃ウォッチで確かめられます。
拒否するかどうかの前に、値上げ幅と時期は話し合いで変えられることがあると知っておくと、選択肢が広がります。たとえば、値上げ額を下げてもらう、次の更新まで先送りしてもらう、段階的に上げる、設備の修繕と引き換えにする、といった提案です。近所の相場の資料や、長く住み家賃を滞りなく払ってきた実績は、交渉の材料になります。
引っ越しを考えるときは、値上げ額×住む予定の月数と、引っ越しにかかる費用を比べます。月5,000円の値上げなら、2年で12万円です。新しい部屋の敷金・礼金・仲介手数料・引っ越し代の見積もりと、新しい部屋の家賃を足して比べると、どちらが得か判断しやすくなります。家賃の目安が気になる人は、主要8都市の家賃の比較も参考にしてください。
| 相談先 | 連絡先・内容 |
|---|---|
| 消費者ホットライン | 局番なしの188。近くの消費生活センター・相談窓口につながる(全国) |
| 東京都 賃料値上げ特別相談窓口 | 03-5320-4958(都庁開庁日の9時〜17時30分)。東京都住宅政策本部の賃貸ホットライン |
| 東京都不動産取引特別相談室 | 弁護士・司法書士による無料の対面相談(予約制 03-5320-5015) |
| 法テラス(日本司法支援センター) | 0570-078374。法的トラブルの相談窓口の案内。収入などの条件を満たせば無料の法律相談 |
| 簡易裁判所 | 話し合いがまとまらないときの民事調停の申し立て |
東京都住宅政策本部は、値上げに同意する前に相談窓口で交渉のしかたのアドバイスを受けることが大切だとしています。東京都以外に住んでいる人は、まず消費者ホットライン188に電話すると、住んでいる地域の消費生活センターを案内してもらえます。都道府県や市区町村によっては、住まいの相談窓口を設けているところもあります。
東京都 Tokyo Metropolitan Government「賃料値上げに関するご案内」(2026年3月公開)。東京都による、家賃(賃料)の値上げについての案内動画です。
話し合いで解決しないときは、簡易裁判所に民事調停を申し立てられます。家賃の増減をめぐる争いは、いきなり裁判ではなく、まず調停で話し合うしくみです。申し立ての手続きや費用は、管轄の簡易裁判所で確かめてください。
A. 従来の家賃を払い続けていれば、値上げに合意しないことだけを理由に退去させることはできません。ただし、大家さんが調停や裁判を起こし、値上げが「相当」と認められれば、その額を払うことになります。その場合、それまで足りなかった分に年1割の利息がつきます。
A. 合意すると、その額が新しい家賃になり、あとから一方的に取り消すことは難しくなります。だまされた・強く迫られたなどの事情がある場合は、消費者ホットライン188や法テラスに相談してください。
A. 借地借家法には、家賃の値上げの通知を「何か月前まで」とする一律の決まりはありません。契約書に家賃の改定の定めがあれば、それに従います。急な通知でも、合意しなければ家賃は変わりません。
A. 言えます。借地借家法32条は、家賃が不相当になったとき、貸主・借主のどちらからでも増減を求められると定めています。近所の似た部屋の家賃が下がっている地域では、減額の交渉も選択肢になります。
A. 拒否や交渉がうまくいった割合を示す公的な統計はありません。値上げの撤回のほか、額を下げる・時期を延ばすといった形でまとまることもあります。合意する前に相談窓口でアドバイスを受けると、交渉の進め方を整理できます。
自分の住む都市の家賃の動きは家賃ウォッチ、物価全体の中での家賃の動きは値上がり品目ランキングで確かめられます。
この記事の情報は2026年10月6日時点のものです。主な出典: 借地借家法・民事調停法(e-Gov法令検索)、東京都消費生活総合センター「賃貸住宅の家賃値上げトラブルに注意!」(2026年3月3日)・「令和7年度消費生活相談概要」(2026年7月30日)、東京都住宅政策本部「賃貸住宅のオーナーチェンジを契機とした家賃値上げトラブルについて」、総務省統計局「小売物価統計調査」「消費者物価指数」。個別の事情についての法的な助言ではありません。具体的な対応は、相談窓口や弁護士などの専門家に確かめてください。